咄嗟のサンドケーキ

 

夕方のニュースによると、名古屋で桜の開花も観測された本日。

〔本と道草〕は、開店以来(年末年始を除き)初めての休業日でした。

青空も随分霞がかったように水色になって、沈丁花の香りも風に乗ってきて。

農協の広場に野菜を買いに行くと、菜の花は多種盛々で、土筆も棚に並んでいて。

昨日線路脇の道を自転車で走っていたら、元気な青大将とも行き合いました。

 

いよいよもって、春なのだなぁ。と、花粉症の目を擦りつつ何となく浮足立つ一方で、

本当に久しぶりの、準備も仕込みもないこの週末は、何とも言葉にし難いような、

ぽっかりと心許ないような、寂しいような……初めての〔土曜日〕でもありました。

そしてこの休業中は、店のメンテナンスや新作レシピの試作も重ねつつ、

普段なかなか時間が作れず書けない店まわりの事などを、

5月末までぽつぽつと、土曜日ごとに書いていこう。と、思いました。

 

休業中の小さな店の、店主の閑談のようなもの。と、お思いいただければ幸いです。

……今日は、ある日の臨時ケーキのことなどを、ひとつ。

 

その日は久しぶりに、午前中早くから、ご近所の方のご来店が続きました。

正午になる前にトントントーンと半分以上のケーキが旅立ち、あっという間に残り少なくなりました。

「これは午後も早々に売り切れてしまうかもしれない…」と、ドキドキしました。

そこで咄嗟に手元のレシピ帳とその日の冷蔵庫で余裕のある材料を使い、

お客さまが一番少ない真昼の一時間で焼いたのが、

この、〔咄嗟のフランボワーズサンドケーキ〕でした。

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ベースとなっているのは、小さな焼き菓子のフィナンシェにもなるアーモンド生地。

これにメレンゲを加えた、フィナンシェよりふんわりとしたケイク生地を焼き上げて、

砂糖無添加のフランボワーズジャムを挟み込んで、出来上がり。

四月に……と考えていたヴィクトリアサンドにも、ひそかに通じているケーキでした。

お陰様でこちらも閉店間際までご注文を頂き、舌鼓を打って頂くことが出来ました。

 

地味に地道にひそやかに、ただ、本が好きな方に一人静かに過ごして頂ける、喫茶店でありたい。

最近何処にいても耳に目にする携帯やカメラやパソコンの力に、密かにしょんぼりしている人が、

丁度空いていた公園のベンチで鞄の中から一冊の好きな本を取り出して、開いてホッとするように。

本好きの人が〔心置きなく一人になれる、好きな本と向き合える場所〕が、もう少し多くあっても

良いのじゃないか……。それが、開店時のとても強い思いでしたし、現在も静かにある願いです。

 

けれど、曲がりなりにも〔飲食店〕と名乗る以上、ボランティアでなくお代をいただく以上は、

ご来店くださったお客さまに、ちゃんと美味しいものをお出ししたい。という気持ちもあり…。

最近は有り難いことに、おやつを楽しみに毎週・毎月のようにご来店くださるお客さまも増えて、

お召し上がり頂いた方に「おいしかった」「また来ます」「来月は何ですか?」と楽しみにして

頂けることは、矢張りとても、幸せで。始めて良かったなぁ。と、心がぽかぽか温かくなります。

 

ある週、折角来ていただいたのにおやつが全て売り切れていて大変申し訳なかった時に、

キュートな笑顔で「じゃあ今日はカフェオレで。来週、ひとつ予約できますか?」と仰有られた際には、

まるで初めて恋に落ちた時のように(?)、驚きと嬉しさで、内心ドキドキしてしまった程でした。

……こうした土曜日を重ねてきて、私は今日も、試作のボウルを抱えているのだな。と、思います。

 

その一方で、何処でも本が手放せない、紙に文字が書いてあれば読まずにはいられないような方や、

お洒落な〔カフェ〕には、どことなく気疲れしてしまうような方にも(私自身もそうなのですが…)

心地良く居ていただけるような、静かな――〔喫茶店〕でありたい。と、今も考えています。

 

時に相反するこの両立は、なかなかどうして、難しいなぁ。と、常々悩みの種でもあるのですが、

どう進むにせよ、少しずつ滞積した修正点とも向き合って、改めて一つずつ、方向を決めていきます。

きちんとお仕事や商売をされている方には〔子どものいない奥さんの趣味〕と言われることもありますし、

経営面をはじめとした様々な面から見ても、そのご意見に対して私は反論できる言葉を持ちません。

(そしてバイトとの二足の草鞋をやめて店に専心することも、店を閉めることも、考えていません。)

……それでも。こんな甘ちゃんでも。この小さな店が、いつしか私にとって掛け替えの無い大切な場所に

なっている事は、揺るぎなく。(休業中の今書くのもおかしな話かもしれないのですが、)いつか本当に

どうしようもない理由が生じて無理になるまで、出来るだけ長く続けていきたい。と、思っています。

 

そういった意味では、この四ヶ月あまりの休業期間は、(店と私のスキルアップ修行は無論ですが、)

お客さまお一人お一人に本とおやつとのひとときを静かに穏やかに過ごして頂ける店であるために、

もう一度店の方向性を見直す、よい機会を貰ったということなのかもしれない。

……とも、感じています。

そして初週にして既に六月の営業再開が一番待ち遠しいのは、きっと今の私だなぁ。とも、思うのでした。

(もの凄く気の早い話で、節分の仕事を終えたばかりの鬼が聞いたらお腹を抱えて笑いそうですが。)

(サンドケーキのことから、いつしかくるくると横道に逸れてしまいました。いやはや……。)

 


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